保育士の処遇改善等加算は、職員の賃金改善や保育の質向上につながる制度です。保育園開業を考える経営者は、仕組みと注意点を確認しておきましょう。
保育士の処遇改善等加算とは、保育現場で働く職員の賃金改善を目的とした制度です。保育士や幼稚園教諭などの人材確保・定着を図り、安定した園運営と保育の質向上につなげる役割があります。
保育の質は、子どもと日々関わる職員の経験や専門性に大きく左右されるでしょう。しかし、責任の重さに対して給与水準が十分とはいえず、人手不足や離職につながるケースも。処遇改善等加算を活用して給与を引き上げることで、職員がやりがいを持って長く働きやすい環境を整えられるでしょう。
また、保育園の開業を考える経営者にとっても、処遇改善等加算は人材採用や職員定着に関わる重要な制度です。加算の仕組みを理解し、適切に賃金改善へ反映することが求められます。
処遇改善等加算の一本化とは、これまで分かれていた処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを整理し、令和7年度以降の制度として見直す動きです。従来は、それぞれ目的や対象者、要件、計画書・実績報告書の扱いが異なり、施設側や自治体側の事務負担が大きい点が課題でした。
また、施設の規模や職員構成によっては、加算Ⅱの配分要件を満たしにくいケースもあり、現場の実情に合わせた運用が難しい面がありました。一本化により、制度の仕組みを分かりやすくし、賃金改善の手続きや配分をより柔軟に行いやすくする狙いがあります。小規模な園でも活用しやすくなれば、職員への還元方法を検討しやすくなるでしょう。
保育園の開業を考える経営者にとっては、職員の処遇改善を人材確保・定着の施策として組み込みやすくなる一方、加算額の使途や賃金水準の維持など、守るべきルールの確認が欠かせません。制度変更後の要件を把握し、運営計画や人件費設計に反映させましょう。
参照元:こども家庭庁|令和7年度以降の処遇改善等加算について[※PDF](https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/3a1576c7-071d-4325-8be8-edced6d12ee1/bd334a89/20251006_policies_kokoseido_144.pdf)
処遇改善等加算の対象となる施設は、子ども・子育て支援新制度に移行している幼稚園、認可保育所、認定こども園、小規模保育事業などの地域型保育事業所です。対象職員は区分によって異なります。
| 区分 | 主な対象職員 |
|---|---|
| 区分1・区分2 | 保育士や幼稚園教諭のほか、事務職員・調理員・栄養士・スクールバスの運転手など。一定時間以上勤務する非常勤職員も含まれます。 |
| 区分3 | 副主任保育士・中核リーダー・職務分野別リーダー・若手リーダーなど、研修修了や技能・経験に応じて処遇改善の対象となる職員です。 |
企業主導型保育園など認可外保育施設では、自治体独自の補助金が用意されている場合もあります。開業予定地の都道府県や市区町村へ確認しましょう。
保育園経営者がまず押さえたいのは、受け取った処遇改善等加算を職員の賃金改善に確実に充てる必要がある点です。区分2・区分3の加算額は、法定福利費の事業主負担分を含め、全額を職員の給与改善へ使う必要があります。
また、加算額をすべて賞与や一時金で調整することはできません。区分2と区分3を合算した改善総額のうち、2分の1以上は基本給または毎月支払われる手当で改善する必要があります。安定した処遇改善につながるよう、開業時から給与設計に反映しておきましょう。
新制度では、区分3の配分ルールが柔軟になっています。旧制度では、月額4万円の賃金改善を行う職員を1人以上確保する必要があり、職員数が少ない園や役職構成によっては、給与バランスの調整が難しいケースもありました。
現在はこの要件が見直され、支給上限・下限の範囲内であれば、施設の判断により複数の職員へ配分しやすくなっています。副主任保育士等は月額4万円以内、職務分野別リーダー等は月額5千円以上4万円未満を目安に、職務内容や経験に応じた賃金改善を行います。
また、賃金の逆転が生じる場合は、園長以外の管理職へ配分できるケースも。保育園経営者は、職員間の納得感を保ちながら、園の実情に合う配分設計を検討しましょう。
処遇改善等加算を受ける場合は、加算による改善額を除いた賃金水準を、基準年度より下げないことが原則です。加算を受けた分だけ新しい手当を支給しながら、法人がもともと支払っていた基本給や既存手当を引き下げる運用は認められません。
ただし、園の運営では、職員の入退職や残業時間の減少などにより、支払賃金総額が前年度と単純比較できない場合も。そのため、制度上は一定の調整ルールが設けられています。たとえば、定期昇給分や公定価格の増額改定分、施設が独自に行っていた賃金改善額などは、比較の対象から除外できる場合があるでしょう。
また、業務効率化によって残業時間が減り、超過勤務手当の総額が下がった場合も、減少分を調整して比較できるケースがあります。保育園経営者は、加算返還のリスクを避けるためにも、賃金台帳や給与規程、支給実績を整理し、基準年度との比較が適正に行える状態を整えておきましょう。年度途中の職員異動や勤務時間の変更も記録しておくと、後から説明しやすくなります。開業初年度から記録の残し方を決めておくと安心です。
利用児童数の大幅な減少や経営状況の悪化により、どうしても基準年度の賃金水準を維持できない場合は、特例として必要最小限の範囲で賃金水準の引き下げが認められるケースがあります。ただし、経営判断だけで給与や手当を下げることは避けなければなりません。
この特例を受けるには、賃金水準を引き下げる理由や内容について職員へ説明し、労使の合意を得たうえで、自治体に「特別な事情に係る届出書」を提出する必要があります。手続きを行わずに賃金水準を下げると、加算要件を満たしていないと判断され、加算額の返還を求められるリスクがあるでしょう。
保育園経営者は、収支悪化が見込まれる段階で早めに自治体へ相談し、届出の要否や必要書類を確認しなければなりません。職員への説明内容や合意の記録、収支状況を示す資料も整理しておくと、後の確認がスムーズになります。制度を正しく使うためにも、自己判断で進めず、手続きの流れを事前に把握することが大切です。
企業や病院の保育所は、働く人の環境もニーズも異なります。だからこそ、「どの保育施設に強いのか」「どのような特徴があるのか」を前提に委託業者を選ぶのがポイントです。