ここでは、企業主導型保育事業とはどのようなものなのか、その仕組みやメリット・デメリットについて解説しています。
企業主導型保育事業(※)とは、増加する待機児童の問題への対策の一つとして、2016年4月に内閣府がスタートした制度です。利用者は就労状況に応じて、自治体に保育の必要性を認定してもらうことなく、保育所と直接契約が可能です。
この制度の目的は、「様々な就労形態に対応した保育所の受け皿を増やすことで、育児と仕事の両立を促す」ことです。企業主導型保育事業の条件をみたせば助成金を受け取れるため、企業主導型保育所は全国的に増加傾向にあります。
複数の企業が共同で設置することもでき、地域住民の子供の受け入れもできるなど、柔軟な保育所の運営が可能。認可保育所と同程度の助成金を受け取れるのもメリットです。
※...新規で保育事業を行う場合は対象外(令和2年までに保育事業を始めている方対象など)
企業主導型保育所のこれまでになかった点について、注目し特徴をまとめました。
企業主導型保育所と似たものに、地域型保育事業の一環として許可を受けた事業所内保育所があります。両者の大きな違いとして、事業所内保育所が認可事業であるのに対し、企業主導型保育所は認可外事業であるということです。
事業所内保育所は、地域の子供を受け入れる地域枠設定の要件を満たすことで、認可施設として運営できるのですが、オフィス街では地域枠の子供の利用が期待できず、事業所内保育所の数は伸び悩んでいます。
これに代わるものとして創設されたのが、自治体が関与せずに助成金が受けられる企業主導型保育事業というわけです。
内閣府の発行した資料によれば、この制度が利用できるのは以下の3パターンとなっています。
※実施にあたって、企業主導型保育事業の助成を受けた子供・子育て拠出金を負担している事業主は、児童福祉法第59条にもとづき、都道府県知事に届出を行う必要があります。
企業主導型保育事業で施設を設置する場合、運営を外部の業者に委託することも可能です。助成金や申請手続きなども自社運営と同じように受けられます。
運営元 | 自社 | 委託(保育士派遣・手続サポートあり) | 委託(保育士派遣・手続サポートなし) |
---|---|---|---|
ランニングコストの内訳 | 採用にかかる費用・保育士の給料・備品代・施設の整備費用 | 委託費用・備品代 | 委託費用・採用にかかる費用・保育士の給料・備品代 |
人材確保 | 募集~雇用後の研修まで対応 | 負担なし | 募集~雇用まで対応(研修は行う業者が多い) |
手続き | 自社で対応 | 委託業者が代行 | 自社で対応 |
企業主導型保育事業を委託する場合、以下のような制限があります。
・従業員の勤務形態に合わせた保育サービスが提供できる
休日や勤務形態が異なる場合でも、延長保育や夜間保育など自由に設定できるため、柔軟な保育サービスが提供できます。
・福利厚生満足度向上と離職率低下
就労状況に合った保育所を利用できることにより、従業員の満足度が高まります。また出産や子育てに際して保育所を利用できるため、離職率低下のメリットもあります。
・地域貢献になる
企業主導型保育所は、定員の最大50%までは地域枠として地元の人に提供できます。待機児童問題を抱える人たちを助け地域貢献が可能に。
・共同設置で経営圧迫のリスクを回避
社内に保育ニーズが少なく、単独で保育所を運営する場合は共同設置を利用できます。そのため、保育所運営が企業の経営を圧迫するリスクを避けられるのです。
・設備や託児環境の質が一定以上
企業主導型保育所は認可外保育施設に分類されますが、助成金を受けるために職員の数や設備など一定の基準をクリアする必要があります。そのため、保育環境の質も維持できるでしょう。
・認可保育施設と料金が同等レベル
企業が企業主導型保育所を開業するにあたり助成金を申請できるため、費用がかかりがちな一時保育サービスでも認可保育施設と同等レベルの利用料金まで抑えられます。
・委託することで経営コストの削減に
外部の業者に運営を委託することで、人材の確保や施設の整備にかかる企業の負担を軽減できます。委託しても助成金は受けられるため、経営コストの削減や自社スタッフの負担軽減につながります。
・保育所の運営リスクがつきまとう
自治体の管轄する認可保育所と違って施設の建設から集客、保育サービスの内容まで企業の責任において行わなければならず、企業側には常に保育所の運営に関わるリスクがつきまといます。
・人材の確保が難しい
企業主導型保育事業では従来の事業所内保育施設と比べて人員配置などの基準が低めに設定されています。そのため、専門知識を持った人材を十分確保できない可能性があります。
・開業コストが負担になる
助成金により企業としての費用負担は軽減されますが、かかるコストはゼロではありません。また、施設の広さや給食設備、防災管理、衛生管理など基準を満たす物件を用意するコストもかかります。
・育児・介護休業法の動きに逆行
育児・介護休業法は育児の申請があった場合に、雇用関係を維持しつつ一定期間の休暇を与えることを義務付ける法律です。企業主導型保育事業の柔軟な保育サービスは、これに逆行しているという指摘が挙がっています。
・大手の場合、全従業員に均等なサービス提供は困難
全国規模の企業では対象となる従業員も増えますが、保育所をすぐに全国の事業所に対応することはできません。どうしても地域差が生まれるため、全従業員に均等なサービスを提供するのは困難です。
・環境で保育内容が制限される場合がある
企業内に設置するので、環境によっては保育内容が制限されることがあります。たとえばオフィス街に保育所を設置する場合、狭い空間で園庭がないことも考えられます。
事業所内保育施設を提供するには、開設費用と運営費用がかかります。開設費用とは、施設の建築費、設備その他備品や保育用品などです。運営費用とは、施設運営のためにかかる費用で、8割程度が保育士などの人件費といわれています。
また、採用コストは1人あたり40~50万円。自社運営をする場合は保育士の雇用から行わなくてはいけないため、より初期費用が重くなってしまう傾向にあります。だからこそ、費用負担を抑えて運営するには助成金の利用が不可欠なのです。
※(定員数10名(保育士率50%)、8~19時運営、日曜休日で計算)
開設費用 | 700万円~4,000万円(設置規模・施設の新築・改修によって変動) |
---|---|
運営費用 | 年間2,000万円程度(人件費【採用コスト込み】+諸経費+水道光熱費) |
総額 | 2,700~6,000万円 |
開設費用 | 175万円~2,000万円(設置規模・施設の新築・改修によって変動) |
---|---|
運営費用 | 年間250~1,000万円程度(人件費【採用コスト込み】+諸経費+水道光熱費) |
総額 | 875~3,000万円 |
開設費用 | 175万円~2,000万円(設置規模・施設の新築・改修によって変動) |
---|---|
運営費用 | 200万円~600万円(業者・助成金の程度によって変動) |
総額 | 375~2,600万円 |
規模にもよって費用に幅はありますが、認可・認可外に関わらず、保育園の運営は企業にとって低コストとはいえません。企業主導型保育事業を利用すると、設備費だけでも4分の3相当の助成が受けられるので、かなりのコスト減につながります。
また、運営を委託すると保育士を自社雇用する必要がなくなり、1人あたり40~50万円の採用コストを削減できるというメリットが生まれます。そのため、保育園の運営を委託できる業者の需要が高まっているのです。
助成金の具体的金額は条件によって異なりますが、内閣府の示すモデル例では次のようになっています。
企業Aが、定員12人(0歳児3人、1・2歳児9人)保育所(東京都特別区、11時間開所、保育士比率50%)を新設した場合
基本額 | 約8,000万円 |
---|---|
各種加算 | 病児保育スペース、一時預かりスペースなど(実施に応じて加算) |
基本額 | 約2,600万円(年額) |
---|---|
各種加算 | 延長保育、病児保育、夜間保育など(実施に応じて加算) |
なお、既存施設の場合は定員を増員、または空き定員を活用した場合が助成対象になります。
企業主導型保育事では保育施設の設置に当たって、自治体の認可を必要としない仕組みになっています。運営・設置基準や職員の資格は小規模保育事業と同様ですが、その他の職員数、設備・面積、給食・調理設備などの処遇に関しては事業内保育事業とほぼ同じです。
助成の内容は、設備費と運営費の2種類があります。設備費については、認可保育所の施設整備と同水準で施設整備に必要な費用の4分の3相当分が設定されています。運営費に関しては、子供・子育て支援新制度の小規模保育事業等の公定価格と同水準で設定されており、企業の自己負担相当分と利用者負担相当分は除かれます。
設備は、乳児室またはほふく室・保育室・医務室・調理室・便所というのが基本構成で、保育室を2階以上に設ける場合は、耐火建築物等の防火上の措置が必要となります。
乳児室 | 子供1人あたり1.65m2以上 |
---|---|
ほふく室 | 子供1人あたり3.3m2以上 |
保育室 | 2歳以上児1人あたり1.98m2以上 |
乳児室またはほふく室 | 子供1人あたり3.3m2以上 |
---|---|
保育室 | 2歳以上児1人あたり1.98m2以上 |
医務室は、定員20名以上で必須となります。また屋外遊技場は、2歳以上児1人あたり3.3m2以上が必要です。
年齢区分に応じて、以下に定める保育従事者の合計数に一を加えた数以上(常時2名以上)を配置しなければなりません。
さらに、配置基準人数における半数以上は、保育士資格保有者でなければいけません。その他の保育従事者は、「子育て支援員研修」を修了した者でなくてはいけません。
また、配置基準人数の算定で保健師、看護師または准看護師を1名に限り保育士とみなすことができます。
2016年11月1日以降、助成申込みは従来の紙媒体から電子申請へと移行されています。助成の窓口は公益財団法人「児童育成会」となります。
申請を希望する企業はまず企業IDの申請依頼を行いますが、その際に企業の基本情報やパスワードを登録します。
申請システムにログインすると、メニューが運営費と整備費で分けられているので、年度に合わせて申請をします。その後、申請書類の審査が行われ不備等がなければ助成が決定します。
助成決定後に企業は概算交付申請を行い、審査で問題がなければ概算交付となります。企業は事業確定報告を行い、その審査に通れば事業確定通知書が送付されます。
助成金の支給は、整備費・運営費で時期が異なります。順番としては、まず開園を目指して保育所の運営をスタートしなくてはならず、整備費の助成金からです。次に、運営費が支給されるという流れになります。
助成金の申請は、整備費は契約・着工年度に行い、運営費は開園年度に一度と年度ごとの申請となります。なお、整備費について助成が決定するのは申請から約3ヶ月後になります。
また、工事の完了から1ヶ月経過する日までに完了報告を申請システムで行い、運営費の助成決定を受け、開園後は毎月初旬に月次報告及び概算交付申請を行います。
企業が運営する企業主導型保育事業において、保育園の規模によって助成金の申請内容が異なるため、手続きには専門的な知識が必須となります。申請方法を理解していれば自社運営でも問題なく行えますが、知らない場合は手続きが複雑で助成金の受け取りが遅れる、もしくは受けられない可能性もあります。
さらに、助成金を受け取った後でも法令違反や運営基準違反があれば、助成金返還や支給取り消しになることもあります。運営を続けながら、手続きに社内の人員を割けるかどうかも事前に検討することが重要です。
しかし、令和2年までに保育事業を開始していない場合、新規で保育事業を立ち上げても助成金は受け取れないため、この点も十分に考慮する必要があります。企業主導型保育事業の助成金獲得を確実に行いたい場合は、助成金申請のノウハウを持つ業者のサポートを受ける方がスムーズです。業者によって対応範囲は異なりますが、関連法令の確認や必要な申請を行ってくれる業者なら、円滑な運営を支援してくれるでしょう。
企業や病院の保育所は、働く人の環境もニーズも異なります。だからこそ、「どの保育施設に強いのか」「どのような特徴があるのか」を前提に委託業者を選ぶのがポイントです。