一斉退職に関するニュースは近年多く取り沙汰されています。たとえば2024年、宮城県登米市にある認定こども園「石越にじいろこども園」では、2月から3月にかけて全体の過半数にあたる保育士10名が一斉に退職するという事態が発生しました。その背景には、園長によるパワーハラスメントがあったと報道されています。
また、大阪府堺市の「あいあい浜寺中央こども園」でも、正規職員12名のうち10名が2024年3月末で退職しました。こちらも原因は、運営母体の会長が保育士を「コマ」と呼ぶなどの人格を無視した扱いがあったからだとされています。
参照元:ミヤテレNEWS NNN[※2025年3月時点の情報です](https://news.ntv.co.jp/n/mmt/category/society/mmdab140a117074a25bfba861fc73335bd)
参照元:FNNプライムオンライン[※2025年3月時点の情報です](https://www.fnn.jp/articles/-/685645)
保育園を経営するにあたって、職員の退職には常に一定の注意が必要です。年間を通じて数名の保育士が退職するのは、家庭の事情や個人的な転職の意向など、避けられない要因も含まれているため、過度に気に病む必要はありません。
また、ときには職員と園との価値観や方針が合わず、協調が難しくなった結果として退職に至ることもあります。こうした個別の事例はどの職場でも起こり得るものであり、経営者として冷静に受け止めることが大切です。
しかし、事態が深刻なのは「一斉退職」や「大量退職」が起きた場合です。これは単なる偶然や個々の事情の積み重ねではなく、園全体の運営や職場環境に構造的な問題が存在している可能性が高いと言えます。
特に、経営者側と職員集団との信頼関係が崩壊してしまった結果として表れることが多く、抜本的な見直しが必要になります。こうした一斉退職が発生する背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っていることが一般的です。
保育や教育の面では、時代にそぐわない古い方針に固執し、現場からの改善提案を経営陣が受け入れないケースが見られます。
保育士が子どもたちのためによりよい保育を目指して提案しても、それが無視されたり否定されたりすれば、職員の士気は急激に低下します。
また、園児に対する不適切な対応が見過ごされるような場合には、保育士としての倫理観から見ても、退職を選ばざるを得なくなる場合もあります。
給与体系や勤務時間の管理、有給休暇の取得状況、職員規定の整備状況が現代の働き方に合っていないと、職員の不満は積もっていきます。それに加えて、経営者や一部の上司からのハラスメントが日常化しているような状況があれば、職場としての安全性そのものが損なわれます。
そのほか、経営サイドのモラルや姿勢にも問題があることがあります。たとえば法人を私物化している、経理上の不正が横行しているといった状況が職員に知られてしまえば、「この園に未来はない」と感じるのは当然のことです。
これから園を立ち上げる経営者としては、こうした事例を他人事と捉えず、予防の視点から組織作りを進めることが肝心です。
まず最優先すべきは、保育士が過剰な業務に追われることなく、本来の保育に専念できる環境をつくることです。日々の業務を見直し、効率化することで、余計なストレスを減らせます。
たとえば、事務作業や日誌記入などに多くの時間がかかっている場合、ICTを導入することで簡略化が可能です。また、雑務や補助業務を担うスタッフを配置すれば、保育士が子どもと過ごす時間をしっかり確保できます。こうした取り組みによって働きやすさが向上し、退職リスクの低減につながります。
保育士の退職理由として大きな割合を占めるのが、賃金の低さです。そのため、開園にあたっては給与体系の整備が欠かせません。経験年数や専門性、保育士としてのスキルに応じた昇給制度を用意することで、職員のやる気を引き出すことができます。
また、資格手当や役職手当といった報酬体系の充実も、待遇改善の鍵となります。保育士が「ここで長く働きたい」と思えるような評価制度を整えることが、組織の安定を支える基盤になります。
働く保育士の多くが家庭との両立に悩みを抱えています。そうした負担を軽減するためにも、柔軟な働き方を実現できる仕組みを整えることが重要です。たとえば、フレックスタイム制度を導入して勤務時間に選択肢を持たせることや、有給休暇・育児休暇を取得しやすい雰囲気づくりが効果的です。さらに、園内に託児スペースを設けたり、他施設との提携を活用した保育支援体制を整えることで、育児中の職員も安心して勤務できます。
長期的な職員定着を実現するためには、明確なキャリアパスの設計も不可欠です。たとえば、定期的な研修制度を設けてスキルアップの機会を提供すれば、保育士の学びたい意欲や成長意識を支えることができます。また、主任や園長といった管理職への昇進ルートを明確にし、公平な評価制度のもとでの昇進を可能にすることも重要です。さらに、保育士資格を持たない職員が資格を取得できるよう、学費の一部補助や研修支援制度を設けることも、モチベーション維持につながる有効な手段です。
企業や病院の保育所は、働く人の環境もニーズも異なります。だからこそ、「どの保育施設に強いのか」「どのような特徴があるのか」を前提に委託業者を選ぶのがポイントです。