女性の離職率が高いことは、会社にとって大きなマイナスイメージとなります。また、優秀な人材を失ってしまうこともあるでしょう。ここでは、女性が離職しやすい環境や女性の離職率が高いことによるリスクなどを解説し、女性の離職防止の方法を見ていきます。
労働環境が悪いことは離職の大きな原因のひとつです。近年こそワーク・ライフ・バランスの改善や働き方改革が謳われていますが、まだまだ長時間残業の問題を抱える職場は多数あります。残業が常に発生し、なおかつ有給が取得しにくい環境では、男女ともに離職率は高くなるでしょう。
女性の場合は、さらに結婚、出産、育児のライフイベントがあります。それらのイベントに合わせての有給取得が難しかったり、常に残業を強いられる環境だったりすると、働き続けることが困難になってしまい、結果女性の離職率が高まるのです。
良好な労働環境を判別するポイントはたくさんありますが、女性の場合は出産前後のサポートがあるかどうかは大きな判断材料になります。産休、育休の制度や時短勤務などのサポート体制が整っていない環境だと、出産を機会に働き続けることが困難になり、離職してしまうケースが多く発生します。
出産前後のサポート体制が整っていない職場だと、妊娠中、子育て中の女性は肩身の狭い思いをすることになります。そして、そうした様子を見ていたほかの女性社員も「この職場は女性だと働きづらい」と感じて離職しやすくなるという悪循環が発生することもあります。
職場内で、男女の別なく業績が評価されるかどうかも女性の離職率に大きく影響します。企業の中には明確な評価制度がなく、「男性は上、女性は下」といった旧態依然とした価値観で評価を行っているところもあります。そうした職場では、同じ程度の業績なのに男性の方が早く昇進する、結婚を理由に異動させられるといったケースが発生します。
女性が評価されにくい環境ですと、仕事に対するモチベーションは当然上がりませんし、優秀な技能を持っていても定着することはないでしょう。
セクハラ、パワハラなどのハラスメント行為も女性の離職率を高めます。ハラスメント行為の有無は、そのまま管理職のモラルを示しています。ハラスメント行為が横行しているような会社は、管理性のモラル意識も低いと言わざるを得ません。モラルの低い管理職がいる職場は雰囲気も悪くなります。
特に、女性は男性よりもさらにコミュニケーションを重視する傾向にあります。そのため、ハラスメント行為がある職場ではまともなコミュニケーションが期待できず、離職してしまうのです。
現在、政府は働き方改革を推進し、国内の労働環境の改善を試みています。この働き方改革の中には、社会における女性の活躍推進が重要な項目として盛り込まれています。しかし、未だに男性に比べると女性の離職率は高いままとなっています。
男女の離職率の差を見てみましょう。厚生労働省の調査によれば、2018年の離職率は全体で14.6%、男性は12.5%、女性は17.1%となっています。年代別では、女性の離職率は20~40歳がもっとも高くなっています。これは、女性は20~40歳の段階で結婚・周産・育児のために離職することが多いためです。
そもそも、日本の社会自体が男女間の格差が大きい社会となっています。男女共同参画局のHPに記載されている「世界ジェンダー・ギャップ指数2020」によれば、日本の経済的参加度および機会は、世界153カ国の中で121位というかなり低い順位となっています。
雇用機会の男女差も、女性の離職率が高い理由のひとつです。女性は男性に比べ非正規雇用の割合が大きく、厚生労働省の「入職者に占めるパートタイム労働者の割合」によれば、35〜39歳の年齢層になると非正規労働者の割合は58.1%にまでのぼるのです。
女性の離職率が高いことは企業イメージを低下させてしまいます。女性の離職率が高いと、「あの会社はコンプライアンスに問題があるのではないか」「人間関係に問題が生じやすいのではないか」といったイメージが生じてしまいます。
また企業イメージは消費者の購買行動にも関わることから、業績不振にも繋がります。
求職者は、当然就職を希望する企業や会社のことを調べます。そうなると、女性の離職率が高いことも求職者に分かってしまうでしょう。女性の離職率が高いイメージを持つ会社にわざわざ入社したいという人は当然少なくなるので人手不足になりやすくなります。
女性の離職率が高いと、「有給休暇が取りにくそう」「出産・育児のサポート環境が整っていなさそう」と思われる可能性も。状況を放置すると、その会社には人材が集まりにくくなるのです。
女性社員の離職率が高いということは、社員の育成のためにより大きな教育コストが発生するということでもあります。どれだけ研修や社員教育でコストをかけて社員を育てても、その社員がすぐに離職してしまえば、かけたコストは無駄になってしまいます。離職率が高いということは、それだけ教育コストがかかってしまうということなのです。
離職者が出た場合、その社員がやっていた仕事は他の誰かが引き継がなくてはいけません。つまり、引き継ぐことになった社員の負担が増えてしまいます。そこからさらに他の人にも仕事を手伝ってもらうことになると、その人に対する説明や仕事の連絡なども必要に。全体の仕事量と負担が増えてしまうのです。
実は、企業で女性が働きやすくするための制度はたくさんあります。例えば、育児・介護休業法第23条では「短時間勤務制度」が定められています。これはいわゆる「時短制度」のことで、3歳未満の子供を養育している父母は、事業主に申請することで1日の所定労働時間を6時間まで減らすことができます。育児・介護休業法第16条の8で定められている「所定外労働の制限」では、3歳未満の子供を養育している父母は、事業主に希望すれば所定外労働を免除されます。
働く女性を支えるための制度は用意されているものの、肝心の制度を知らなくては利用はできません。離職防止のための制度を有効利用して女性の離職率を抑えるには、まず支援制度や法律の周知徹底が大切なのです。
仕事と育児の両立は、女性の離職率を抑えるためにとても重要です。仕事と育児を両立するためには、企業内の福利厚生を充実させることが重要です。
特に、社内に保育所を設置するのはとても有効です。2016年には、企業主導型保育事業制度がスタート。制度開始に伴い、高い柔軟性を持つ保育サービスが提供できるようになったのです。企業主導型保育所の保育所は、単体の企業だけでなく複数の企業が協力して共同設置・共同利用することが可能。設置のハードルは従来に比べて大幅に低くなりました。
企業主導型保育事業のメリットとしては、従業員それぞれの勤務形態に合わせて保育サービスを提供できる点があります。延長保育、夜間保育にも対応できるので、それだけ社員の満足度は向上するでしょう。社員の満足度が向上すれば、離職率も低下していきます。
女性社員が離職しにくい社内環境を作るには、特にメンタル面がナイーブになりがちな出産前後の時期に働きやすく過ごせるよう、社内のコミュニケーションを活性化させることが有効です。
ランチタイムを有効活用するのは大切なことです。出産前後の時期は、出産の準備や育児のために、仲間との飲み会などに参加しにくくなります。仲間とコミュニケーションを取る機会が減ってしまうため、精神的な負担の一因となることも。それを補うために、ランチタイムを利用してコミュニケーションを取ることが有効です。社内ではなかなか言えないことでも、社外でなら言えることもあるでしょう。
また、社内に女性同士のコミュニティを作るのも有効です。所属するコミュニティがなければ、人は孤立してしまいます。所属する女性だけのコミュニティがあれば、出産や育児について悩みや不安を共有し、解消することができるのです。
育児や出産のために女性社員が長期の休みを取ることになれば、その仕事は他の社員が引き継がなくてはいけません。しかし、業務内容がしっかり可視化されていないと引き継ぎがスムーズに行かず、余計な時間がかかってしまいます。
そうした事態を防ぐには、普段から社員全員が各々の業務を可視化・共有化しておくことが重要。具体的には、業務に関するマニュアルや業務内容をまとめた一覧表の作成などが有効です。可視化・共有化によりほかの人がやっていた仕事をスムーズに引き継げるので、産休や育休で長期間休むことになっても問題なく業務を継続できるでしょう。産休や育休も取りやすくなり、女性社員の離職率も低下していくはずです。
育児期間はすぐに終わるわけではありません。育児中の女性が離職せずに働き続けられるようにするには、育児をしながらでも働きやすい環境を整えることが必須条件です。
まずは、育児中の女性を支えるための制度や法律を社内で周知することが大切です。制度や法律をしっかり知っていれば有効活用できますし、支援体制も構築しやすいでしょう。もちろん、支援体制には女性社員だけでなく男性社員も積極的に関わっていく必要があります。
また、育児中や子供の病気などで急に帰らなくければいけなくなることもあります。早退をする場合、帰りにくい雰囲気を作らないようにすることも大切です。むしろ、管理部門から緊急の際は早めに仕事を切り上げるよう、呼びかけるようにするのがいいでしょう。
企業や病院の保育所は、働く人の環境もニーズも異なります。だからこそ、「どの保育施設に強いのか」「どのような特徴があるのか」を前提に委託業者を選ぶのがポイントです。