人件費の管理は重要な課題の一つです。こども家庭庁が公表している「令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果」によれば、保育所における人件費の比率は全収益の約7割を占めており、経営費用の中で最も大きな割合を占めていることが明らかになっています。
これはつまり、保育園経営において人件費の管理が全体の収支に大きな影響を与えるということを意味します。
このような状況を踏まえると、人件費を削減することで経営を改善しようと考えるのは自然なことかもしれません。しかし、ここで注意が必要です。
WAM NETが提供する「2023 年度 社会福祉法人の経営状況について」のデータでは、保育に関わる法人では離職率が採用率を上回っているという実態が示されています。つまり、すでに人材の確保が難しい中で、さらに保育士の給与や待遇を下げるような施策を講じれば、職員の離職が加速し、結果的に保育の質の低下や園運営の不安定化を招く恐れがあります。
したがって、保育園を新たに開業する際には、人件費を単に「削る」ものと考えるのではなく、「適切に配分し、長期的に人材を確保・育成するための投資」として捉える姿勢が求められます。
待遇の改善や職場環境の整備を通じて優秀な保育士を確保し、定着を促すことで、結果的に園の安定した運営と信頼の獲得につながるでしょう。
参照元:こども家庭庁|令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報>[※PDF](https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/443197f1-8796-458c-b5c8-27bb782a77d5/a24882bd/20241218_councils_shingikai_kodomo_kosodate_443197f1_18.pdf)
参照元:WAM NET|2023年度 社会福祉法人の経営状況について[※PDF](https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/250311_No013.pdf)
多くの方が人件費増加の理由として「給与の引き上げ」や「勤続年数が長い職員が多く、1人あたりの人件費が高騰している」といった点をイメージするかもしれません。しかし実際には、それ以外にも見落とされがちな背景があります。
特に近年顕著なのは、「職員配置人員の増加」による影響です。これは、保育士の確保が年々困難になっている状況と深く関係しています。
保育士不足が続く中で、優秀な人材を安定して確保するのは容易ではありません。そのため、多くの保育園では人材を確保しようと正社員採用を繰り返し行い、必要以上に配置人員が増えてしまうことがあります。
また、せっかく採用できた保育士が育成の途中で退職してしまうケースも少なくなく、結果的に育成コストだけが残る形となり、さらに新たな人材確保が必要になります。
こうした循環の中で、保育士の人数を過剰に確保せざるを得なくなり、「保育士1人あたり子ども○人」という国が定める配置基準を安定して満たすことが困難になる園も出てきています。
つまり、人件費が膨らむ背景には、単に支払い額の問題だけでなく、人材の流動性や採用戦略の在り方、保育の現場における配置バランスの問題など、複雑な要素が絡み合っているのです。
。ICTシステムを活用することで、日々の業務を効率化し、保育士の作業負担を軽減できます。たとえば、業務の効率化によって保育士の残業時間を削減することが可能となり、その結果として人件費のコストカットにつながります。
また、従来は紙で行っていた多くの作業や記録をデジタル化することができます。これにより、紙代や印刷費といったコストの削減だけでなく、保管に必要な棚や倉庫のスペースも節約できるようになるでしょう。
採用費が過剰に発生する主な原因のひとつは、保育士の退職が多いことにあります。せっかく採用してもすぐに辞めてしまえば、再び採用活動を行う必要が生じ、そのたびに費用と手間がかかります。
したがって、退職者を減らすことが結果的に採用費を抑え、さらには人件費全体の安定にも寄与するのです。
重要なのは、保育士が「ここで働き続けたい」と思える環境を整えることです。たとえば、新人職員に対する丁寧な教育や指導を行い、不安なく現場に慣れていけるようサポートする体制を整えること。
また、園内の人間関係が良好であるよう配慮し、コミュニケーションを大切にする風土を築くことも効果的です。そのほか、有給休暇を気軽に取得できる雰囲気をつくるなど、働きやすさを実感できる仕組みを導入することも大切でしょう。
委託にはそれなりの費用が発生しますが、結果的に人件費を抑える効果が期待できるケースもあります。
たとえば、自主運営で職員を採用・育成する場合、求人広告や面接、研修などにかかる費用や時間は少なくありません。また、人材がなかなか定着しない場合には、再び採用活動を繰り返すことになり、そのたびにコストがかかります。このような状況が続くと、予想以上に人件費が膨らんでしまう可能性があるのです。
一方で、委託会社に依頼すれば、一定の品質や人材を安定的に確保できるだけでなく、採用や育成の手間も軽減されます。そのため、現状の人材確保にかかる費用と、委託にかかる費用を冷静に比較し、どちらがより収益性の高い選択肢となるかを検討するとよいでしょう。
企業や病院の保育所は、働く人の環境もニーズも異なります。だからこそ、「どの保育施設に強いのか」「どのような特徴があるのか」を前提に委託業者を選ぶのがポイントです。